紋日はノルマがつらみでやばたにえん!?

2021年6月16日

紋日=祝日=縁日

月に2回は必ず訪れる吉原の特別な日「紋日」

この日は揚げ代(遊廓で遊ぶお金)が
倍以上も跳ね上がる日で。

遊女は店から指定されたノルマを果たせないと
納屋に連れて行かれて激しい折檻を受ける。

と紹介しています。

こう聞くと
明らかに遊女を苦しめ
痛めつけるために生まれた悪しき習慣かと思われますが。

ちょっと待ってください。

遊女は自身の借金を返すために店にいるのです。
激しい折檻で死なれたら
店側は借金を抱えられたまま、あの世へ逝くことになり
つまり踏み倒されると言うことになります。

そんな機会を
それも毎月も
望んで生むとは思えません。
ここで紋日の真実についてご紹介します。

紋日とは

「紋日」とは
廓で衣服(紋付)を着替える重要な祝日。

簡単に言えばコスプレデーです。
「普段とは変わった衣装でお招きしましょう」
と言うモノです。

なぜそうする必要があったのでしょう?
その理由は吉原だけに焦点を当てても出てきません。

そこで「吉原の暦」にとらわれず
「江戸の暦」の中で紋日がどこに当たったのかを知る必要があります。

祝日のない江戸時代

江戸の暦を見ると

「記念日」「国民の祝日」と言うものがありません。

みんな好きな時に働き、好きな時に休むので

そもそも「休日」と言う概念はないのです。

現代ならば「ゴールデンウィーク」などの大型連休や
振り替え休日などの「土日月の3連休」には人が動き
小売業をはじめ
様々な商いにとって売り上げアップの起爆剤となります。

事実、どの業種も「連休」の日の売り上げは通常よりもあがります。
それが江戸時代には在りませんでした。

国民の祝日=縁日

では当時の人はいつ散財するか?
答えは「縁日」です。

毎月どこかの寺や神社で必ず縁日があります。
縁日があれば人は縁起を担ぎにやってきます。

「今日は浅草
「来週は亀戸
「その次は湯島」など

鎮座する神様もまちまちですから、
それに該当する人もいれば
全ての神様から恩恵を受けようとする強者もいます。

それを察してか
周辺の神社、お寺は縁日を被せません。

人が分散しては
共倒れになりますからね。

縁日でわかるお金の流れ

客が客なら商人も商人
縁日のたびに出店します。

地元の商人も居れば、遠渡はるばる来る者もいます。

その光景は
さながらデパートの「うまいもの市」
目の前に色とりどりの名産が並んでいたら
人間、買いたくなるでしょう。

そしてお賽銭を頂く寺社も大もうけ。
この時代は何事も神頼みですからね。

もちろん貰ってばかりではお客は離れていきます。
そこで
また来て貰えるように「富くじ」(宝くじ)を開催し

夢を売るのです。

江戸時代に「国民の祝日」はありません。
しかしそれに変わる「商売の日=縁日」がありました。

余談~遊廓と寺社~

話は少し逸れますが
全国の遊廓には必ず神社やお寺があります。

遊女が故郷の親を案じるのは勿論。
店の繁盛を願う主人
遊女を落としたい殿方がお賽銭を入れて神様に祈るのです。

寺社は置いておくだけでウハウハなんですね。
人間の様々な欲がお賽銭箱へ投入されるのですから。

江戸の1年と吉原の紋日一覧

人が集まる日=縁日の構図は出来ました。
それでは吉原の紋日と縁日の繋がりを見てみましょう。

注、こちらは旧暦のものになります。
旧暦については難しく考えずに
季節が少しズレている程度に捕らえましょう。

1月

元旦~7日「松の内」
この期間に七福神巡りをすると縁起が良い。

2日 商売初め、買い始め、芝居初日

5日 三社法楽流鏑馬(浅草)

7日 紋日
   七種祝い(七草粥)

10日 十日夷(各地)

11日 紋日
    鏡開き(各地)

15日 紋日
    道祖神の祭日(各寺社)

16日 紋日
    十六夜・月見

20日 紋日
    二十日正月(各地)

2月

1日 紋日

10日 紋日
    天神祭(湯島)

15日 紋日
    涅槃会(各寺)

24日 妙義権現祭(亀戸)

25日 ひな人形市(各地)
    雛見世(上野)

3月

1日 紋日

3日 紋日
   雛祭り
   雛市(日本橋・銀座・浅草ほか)

10日 金比羅の縁日(各地)

15日 紋日
    梅若忌(木母寺・吉原

18日 紋日
    三社祭(浅草)

4月

1日 紋日
   衣替え

15日 紋日
    玉姫稲荷祭(山谷)

17日 増上寺ご開帳

25日~5月4日
    兜市(尾張町・茅場町)

30日 天満宮御衣祭(亀戸)

5月

1日 紋日

5日 紋日
   端午の節句(各地)

15日 紋日
    明神祭(下谷三島)

28日 川開き(両国)

6月

1日 紋日
   富士祭(本郷・浅草千束)

7日~14日
   天王祭(南伝馬町)

10日~13日
   天王祭(小舟町)

15日 紋日
   山王祭(日枝神社)

7月

1日 紋日

7日 紋日
   七夕祭(各地)

10日 紋日
    四万六千日(浅草)
    金比羅の縁日(各地)
    晴天十日、大相撲(回向院)

11日 盂蘭盆の市(各地)

12日 槍祭(王子神社)

15日 紋日
    盂蘭盆会・盆・中元(各地)

16日 盆踊り(各地)

8月

1日 紋日
   八朔の白無垢(吉原)

15日 紋日
    八幡祭(深川)
    名月

25日 天神祭(亀戸)

9月

1日 紋日

9日 紋日
   9月の節句
   衣替え(冬服)

11日 感応寺富突き(谷中)
    明神祭(芝)

12日~14日 月見

13日 紋日
    十三夜

15日 紋日
    明神祭(神田)

21日 権現祭(根津)

10月

1日 紋日

10日 天神祭(湯島)

15日 紋日
    神明祭(駒込)

11月

1日 紋日
   芝居(顔見せ、狂言始め)

15日 紋日
    七五三

12月

1日 紋日

14日 歳の市(深川)

15日 紋日
    歳の市(深川)

17日 紋日
    歳の市(浅草)

18日 紋日
    歳の市(浅草)

縁日と吉原

暦を見て分かるのは

近場で行われている縁日だと
紋日も当日同時開催
だと言う所。

周囲が縁日でおめでたいのに
吉原だけ変わらずにいて良いのか?

普段華やかな吉原だからこそ
いっそう派手に迎え入れないと
その名が廃ると言うところでしょう。

特別な日に
特別な様式で迎える。

これこそが吉原の祝日「紋日」でした。

そんな日ですから。
多少お値段が高くても利用されるのです。

紋日に訪れる客

それを踏まえれば紋日に訪れるお客様の目処が立ちます。

一般人

縁日(紋日)のおめでたい雰囲気を味わいたくてやってきます。

妻子は縁日を楽しませておき
自分はこっそり吉原へ、
なんて事は吉原通いの常套句です。

また富くじで一等を当てたその足で豪遊

という展開も十分考えられます。

毎月15日はお月見です。
当時は吉原に限らず
各地の月見スポットには人が集まり
各々宴を楽しみます。

商人

毎月1日は新月(八朔)です。

日本には古くから「朔日参り」と言う風習があります。

新しい月の初めに神社へ行き
無事に一月過ごせた事への感謝と
新しい一月の無病息災、家内安全、商売繁盛を願うのです。

もちろん神社は賑わいますし

その足で吉原へという構図は一般人と同じです。

また先の縁日で
1日中売る側に立ち
遊びに行くことが出来なかった彼らのために
縁日が終わり一段落付いた労いの場として
用意した日とも言えましょう。

余談 2 ~もともと200日あった紋日~

たまに「紋日は200日あった」という紹介文があります。

1月辺り15日あっても足りないくらいの計算です。

しかしこれでは特別感がないため段々減らしていき

最終的には50日ほどに落ち着きました。

まとめ

紋日=縁日=現代の国民の祝日です。

ちゃんと備えれば
黙っていてもお客様は来ます。

仮にこの状況下でノルマが生まれても
いとも容易く達成できる仕様になっています。

ここでもし折檻を受ける者が居るとすれば。
この特別な日によほど手を抜いていた者なのではないでしょうか?
それなら対象になっても可笑しくは無いです。

今一度言います。

遊女は稼ぎ頭であり宝です
死なれて困るのは店側です。
常に遊女は優位に立っています。

遊女を苦しめる習慣などありません。

執筆後記

ノルマって江戸時代では何て言うんですかね?

関連記事